パナマ文書の発覚以降、「オフショア」という文字を見かけることが増え、情緒的な否定論も増えてきています。
今回のパナマ文書の前にも、オフショアに関する議論が一時的に増えた時期がありました。2008年から2010年頃に盛んにおこなわれていた、証券取引等監視委員会(SESC)事務局総務課長(当時)の佐々木清隆氏による、「不公正なファイナンス」に関する議論でした。
インターネット上でも、金融庁のウェブサイトにアップされている、特別講演「インサイダー取引に対する証券取引等監視委員会の対応」や、日本不動産鑑定士協会連合会「不公正ファイナンスへの対応(その1)不公正ファイナンスの特徴」を、読むことができます。
佐々木氏の「不公正なファイナンス」論では、「不公正なファイナンス」の定義なしに、違法でないファイナンスをも含めて批判!
佐々木氏の「不公正なファイナンス」論の大きな特徴は、以下の二点にあります。
- 何が「不公正なファイナンス」なのかを定義しませんでした。
- 「不公正」あるいは「不適切」という言い方をして、「違法」でないファイナンスを排除しませんでした。
(新聞は、あくまでイメージ画像です。)
不公正ファイナンスによく見られる「特徴」とは?
不公正ファイナンスを定義づける代わりに、不公正ファイナンスによく見られる「特徴」を挙げていました。
- 不公正なファイナンスの当事者となる上場企業は、東証一部上場企業ではなく新興市場などに上場している企業が多い。また、事業の実態が失われ、投資事業をメインとしている企業が多い。
- そうした上場企業が第三者割当増資・新株予約権の割当をする訳ですが、割当先がいわゆるオフショアの特別目的会社(SPC)であるケースが多い。
- 会社が挙げているファイナンスの目的と手段・その後の資金使途が合致しないことが多い。(緊急の資金需要があると言いながら新株予約権を割り当てるとか、実態不明の起業に資金が流出してしまうことが多いとのことです。)
- 金融機関出身者、仕手筋、弁護士、会計士などがアレンジャーとして、不公正なファイナンスをアドバイスしている。
いずれの特徴も、それ単体では違法とは言えないものです。
特に、オフショア法人の設立サポートやオフショア法人を用いたストラクチャーのアドバイスをしているOWL香港の立場からは、オフショアというだけで悪者扱いする論法には納得がいきません。
オフショアを用いた「不公正ファイナンス」、その「不公正」なポイントとは?
ここまで、佐々木氏の「不公正ファイナンス」論に、多少とも不平を述べてきました。
しかし、証券市場の健全性を確保するという彼の立場からは、オフショアをやり玉に挙げた「不公正ファイナンス」論にも同意する点はあるのです。
まず、オフショアを用いたファイナンスの場合、実質的な資金の出し手が非常に見えにくくなるということです。
そのため、インサイダー取引を仕掛けていても発覚しにくいですし、こうしたオフショアSPCへの割当を通じて株価操縦をしても発覚しにくいと言えます。さらに、マネーロンダリングがされているケースもあるようです。
不公正ファイナンスを香港で見かけることはあるのか?
奥歯に物が挟まったような言い方になりますが、香港で、仕手筋と言われる人々や、オフショアの匿名性を利用して株価操縦を図ろうとしているのではないかとの疑いを持ちたくなるような事案を、目にすることが無い訳ではありません。
ただ、そうした不公正ファイナンスは、オフショアを用いたスキームのうちごく一部であって、圧倒的多数は、公正であると考えています。
OWL香港は、違法行為にあたらない形でのオフショア法人の利用を応援しています。
問い合わせ先(OWL Hong Kong Limited):info@owlhongkong.com
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